さくらの花の咲くころに


「そっかぁ、もう1年になるのかぁ。」

 夕方、郵便受けの中に封筒が入っていた。何かと思えば、高校の同窓会の案内状だった。こんな案内状を1枚1枚手書きしているとは、さすが会長だなと思った。

 卒業式の1週間前、ホームルームの時間にみんなで決めた。まずは、同窓会長。体育系に走るか、それともまめそうな子を選ぶか意見が割れたけど、結局選ばれたのは国松君と絵里だった。国松君はずっと野球部で、クラスの男の子は名前の城太郎の一文字を取って「城」と呼んでいた。どうせこいつは野球以外に脳のない奴と決め付けてたら、何と立聖館大学に進学が決まってしまった。絵里はクラスで一番しっかりしてて、噂によると高校からまっすぐ帰って暇さえあれば勉強していると言われていた。要はクラスで一番まめな子で、こっちは国公立の雄とも言われている都大学に進学が決まっている。良く言えばお互いの欠点を補えそう、悪く言えば凸凹な同窓会長が選ばれたわけだ。

 国松君は、同窓会長に決まった途端、教卓に立った。手招きして絵里を呼んだかと思うと、「1年たったら同窓会をやろう」って言う決議をやらかした。結局、1回目の同窓会の大体の日程ぐらいは決めておいて方がいいんじゃないかってことで、賛成多数で可決した。きっと、この案内状を作ったのは絵里じゃないかと見当がつくけど。

 正直なところ、逢いたくてしょうがない子が一人だけいた。誰かと言えば、福留君だった。高校3年間ずっと同じクラスで、学級委員長を歴任していたすごく賢い子だった。ただし、運動の方はあまり得意ではないらしく、他の科目が4とか5とか取ってる通信簿が、体育だけはいつも決まって3だったらしい。こうやって3年間も同じクラスだったら何かあってもおかしくはないんだけど、何もなかった。ただ、数学1の授業の時に席が隣同士で、およそ一晩考えても解けなかった昨日の宿題をいつも助けてもらってた。何しろ、私は数学が苦手中の苦手。自慢じゃないけど、試験の点数なんか下から数えた方が早かった。そこで、授業の前の休み時間に、福留君のノートを見せてもらってた。ま、宿題だったら何とかなるんだけど、黒板に問題を書いて、さあ解いてみなさいと言われたら目も当てられない。そんな時は、左を向いて覗き見するしかなかった。こんな問題をいとも簡単に解くなんて、福留君の頭の中は一体どういう仕掛けになっているんだろうと何回思った事か。こんな風に、いつもお世話になってた福留君だったんだけど、東京の大学へ進学したから逢う事もなかった。私は短大に行ってるから、運が良ければ駅で一緒って言うパターンはありうる。でも、東京へ行ってしまったからそれもなかった。こう言う、真面目に眼鏡をかけたような子はどのクラスにも一人はいるけど、福留君は眼鏡をかけてなかった。それが、同窓会では眼鏡をかけていた。去年の春ぐらいから視力が落ち始めて、免許を取った時に「眼鏡等着用」と条件を書かれたからしぶしぶ眼鏡をかけたんだとか。これで、本当に真面目に眼鏡をかけた子になってしまった。

 まだ卒業して1年しか経ってないと言うのに、さっさと結婚して名前も変わってた子がいた。高校に通ってた頃から付き合ってたらしく、卒業と共に結婚してしまったんだとか。みんなで「早すぎるぞ!」の大合唱。ここにいるメンバーのほとんどが、大学生か短大生か浪人生かのどれかだもん。

 やっぱりと言うか、当然と言うか、一番変化がなかったのは国松君だった。相変わらず大学で野球をやってるらしい。もともと高校へ勉強しに行ってるのか野球しに行ってるのか良くわかんない子だったけど、今度は大学へ野球しに行ってるとしか思えない子になっていた。

 私の卒業した高校と言うのは、ちょうどうちから15分ぐらい山手に歩いたところにあって、グラウンドの脇の道路からはさくらが見えるようになっている。同窓会の日には、つぼみがついていた。来年の今頃は、ひょっとしたらこのさくらのつぼみを見ては、学生時代を思い出しているかもしれない。