恋したっていいじゃない


 僕の友人で、富田と言う奴がいる。こいつがまた、手に負えないぐらいの占い好きなのだ。どれぐらい好きなのか。例えば、こいつとゲームセンターに行ったとしよう。1000円札を何枚も崩して、山のような100円玉を抱えてるまでは、ゲーマーと一緒だ。ところが、僕がゲームに夢中になっている間、富田は占いに夢中になっているのだ。まず、占いマシーンを陣取って、山のような100円玉を重ねて、占いにつぎ込む。僕がゲームを終えるころ、富田は山のように紙を持っている。紙と言っても、鑑定結果が印刷された紙なんだけど、ここから富田の解説が始まる。

「森山裕子。この子の場合、性格が・・・。」

 どうやら、自分で気に入った女の子と自分との相性を調べてたらしい。それを調べて一体どうするんだって言いたくなるんだけど、言いたいのを我慢して最後まで話を聞く。そりゃあ占った結果、良かったら別に問題はない。じゃあ、悪かったら一体どうするというんだろう。例えば、この森山裕子とか言う子(何を隠そう、僕はこの子がどういう子なのか知らない)が好きで、占った結果「良い相性です」みたいな事が出てきたら、別に問題はない。しかし、占った結果「相性は良くありません」みたいな事が出てきたら、森山裕子は諦めると言うのだろうか。そんなことだったら、今日生まれたばっかりの赤ちゃんに、富田との相性ばっちりとか言う名前をつけたら、その赤ちゃんが成長して富田を好きになるとでも言うのだろうか。ま、そんなことは僕の知った事ではないから、取り敢えずこいつの説明が終わるのを待つ。

「・・・そういう訳で、これは頑張る価値があるって訳かな? どう思う?」

 どう思うもこう思うもない。一番最後に僕に聞くぐらいだったら、あれだけつぎ込んだ100円玉は浮かばれたもんじゃない。大体、森山裕子って子がどんな子なのかも知らないのに、どうアドバイスしろと言うのだろう。そんなことを言ったところで、富田が聞くわけないから、

「取り敢えず頑張ってみたら?」

 と答える。挙げ句の果てには、富田はいつもこんなことを言う。

「いやあ、やっぱり占いってすごいもんだなぁ。俺が好きな子のデータを入れたら、ちゃんといい結果が返ってくるんだもん。」

 好きな子のデータを入れたらいい結果が返ってくるのか、いい結果が返ってきた女の子しか好きになってないのか、それを言い出したらきりがないけど、この調子だと、およそデートの待ち合わせ場所で公衆電話を陣取って、今日の愛情運は・・・なんて事をやっててもおかしくはない。それで、もし運が悪かったらデートをどたキャンするとでも言うんだろうか。待ち合わせ場所に行ってみたら、近くの公衆電話から富田が出てきて、急に用事ができたからデートは中止って言われて、あんまりに突然過ぎて目が点になってる女の子の顔が浮かぶという物だ。

 これだけ相性運ばっちりの相手ばっかり選んでて、なんで別れたりなんかするんだろうか。答えは簡単。占いという物はよくできていて、今月の相性なんてものがある。で、富田の奴は、もし今年の相性とか、今月の相性を占って、悪い結果が出ればさっさと別れてしまうのだ。例えば、さっきの森山裕子とか言う子と富田の今月の相性なんて言うのを調べたとしよう。そして、もし「今月は雲行きが怪しいですね」なんて出てきたら、森山裕子とはさっさと別れてしまうのだ。事実、あいつはそれで何度もトラブルを起こしてる。その原因は、相性が悪くなったからというだけの理由で別れようなんて言われた女の子の気持ちになってみれば、簡単だ。これまで一回も口喧嘩すらしたことがないのに、突然別れようだもん。もし僕がその女の子だったら、開いた口が塞がらないだろう。いや、開いた口が塞がらないぐらいだったらまだいい。この「別れよう」の一言が原因で、富田と喧嘩別れした女の子もいる。もっとすごかったのは、僕の家に女の子から涙声で電話がかかってきた事だってある。その事件と言うのは、僕と富田が高校生だった頃に起こった。その女の子と言うのが僕のクラスの女の子で、僕と富田が仲良しだって知っていたのだ。で、富田はいつもの通りに一目惚れして、いつもの通りに占ってみたら、相性も◎。この占いもばっちり当たって、富田が告白したらばっちりだったし、この二人は結構長続きした。ところが、付き合い始めてから初めての夏休みのこと。海に行きたいって言う話が出たらしく、日取りも決めて、切符も取って、水着も買って、後は行くだけという状態になって、突然別れようなんてことを言い出したのだ。これには女の子も相当ショックだったらしく、連絡簿で僕の家の電話番号を調べて、泣く泣く電話をよこした。

「あたし、一体富田君に何をしたって言うの?」

 僕は、今にも大泣きしそうな声で、切実に訴えられた。そりゃあ無理もない。聞いている僕でさえ、こんな残酷な話はないと思うんだもん。さすがの僕も今度ばかりはと、富田に思いっきり言ってやったら、あいつは涼しい顔をして、

「だって、もうそろそろ別れた方がいいって占いに出てきたんだもん。」

 大体見当はついていたとは言え、こうも簡単に片付けられてしまっては、文句を言いたい気持ちにすらなれないというもの。挙げ句の果てに、奴はこんなことを言った。

「今月の愛情運は最悪って言ってた占い、当たったな。気をつけないと。」

 自分で不幸を背負い込んどいて、何が占い当たっただ。こんなことばっかりやってたら、そのうち天罰が来るんじゃないかって僕も思ってた。

 つい1週間ほど前、富田が僕の家に電話をよこした。何か切実な声で、すぐ来てくれって言ってた。言われたとおり富田の家に行ってみると、テーブルの上に3枚の鑑定結果が置いてあった。

「実は、3人の女の子がいる。四柱推命ではこの子が一番相性がいいんだ。でも、ルナ占星術ではこの子が一番相性がいいんだ。でも、姓名判断ではこの子が一番相性がいいんだ。・・・と、そこで君に聞こう。誰と付き合ったらいいと思う?」

 そんなもん知るか。大体3人の女の子って、僕はどんな子だか知らないんだから。なんてことを言ったところでアドバイスにならないから、僕はこう答えた。

「誰って、自分で好きな子と付き合ったらいいんじゃない?」

「いや、実は3人とも好きなんだけど・・・。」

 実は富田と言う奴、最近ダンススクールに通い始めたらしく、そのダンススクールでいいなと思った女の子が、この3人だったと言うわけだ。ま、最初のうちは3人ともまんべんなく付き合ってたみたいなんだけど、あるひょんなことから二股ならぬ三股をかけていることがばれて、3人全員から振られてしまった。ま、どの占いにも載ってない行動をやってた結果がこれだから、曲解すれば3つの占いは全部当たったというわけだ。富田の奴が相当落ち込んでたのは、言うまでもない。

 僕自身思うんだけど、正直に好きだと思う子に恋するから恋なんであって、富田のようなパターンは恋してる事にならないんじゃないかな。ちゃんとした恋をして欲しいけど、あいつはやっぱり占いマシーンのどつぼにはまってるんじゃないかな?