真夏のサンタクロース


 はっきり言って、私は彼氏に不自由していない。なぜかと言うと、私の職場は若い男ばっかり。一応、そこそこ名前が知れているアパレルメーカーで、OLをやっている。しかも、この職場と言うのが結構大らかで、暇を見つけては女子更衣室とか給湯室とかで、OLばっかり固まって男の話ばっかりしている。しかも、5時が近くなるとタイムレコーダーの前でカウントダウンして、ブザーがなると同時にタイムカードを押して退社というパターンだ。こんなのがまかり通ってるんだから、うちの会社もすごいもんだと思ってる。しかも、男も見つけ放題。うちの会社のOL達がいつも使う手段として、例えば自分が前から目をつけている男と帰りの電車が一緒だった時、

「○○さんって、彼女いないんですか?」

 なんて事を言うと、大抵は誘いに乗ってくる。で、その晩一緒に飲んで、気分が乗ればエッチしてなんてこともある。もし下手くそだったらポイしちゃえばいいんだし。

 もっとも、うちの会社はかなり恵まれているからこういう事が平気でできるのだ。多恵子の行ってる会社と言うのが、男っ気も何もあったもんじゃないらしい。多恵子は短大時代からの親友で、今は某百貨店に勤めている。もともと女ばっかりの職場で、売り場の係長も女性。しかも、おそよ30半ばに差し掛かろうかと言うのに結婚しようともしない、良く言えばキャリアウーマン、悪く言えば嫁のもらい手のない行きそこないだ。まあ、こんな現代の大奥のような職場に行ってしまったら、男の話をしたくてもできないんだとか。そんな多恵子が電話してきたら、いつも男の話になる。

「ねぇ絹ぅ。ちょっとはこっちに男回してよぉ。こんな女ばっかりの環境じゃ死んじゃうよぉ。」

 多恵子は私以上にかわいくて、私以上の男好きで、しかも一目惚れしやすいたちだから、その気になれば男の数人はぶいぶい言わせててもおかしくなんかないのだ。ただ、臆病な性格だから一向に彼氏が見つからない。私の前ではあれだけ男の話をして、相当エッチな事まで平気で喋ってる癖に、いざ合コンに行ったら隅っこの方で下を向いてチューハイを飲んでいるだけ。短大時代から、多恵子はこれだった。

「ねぇ男紹介してよぉ。久々にエッチな事したいよぉ。」

「そこまで言うな、そこまで。」

 こんな多恵子でも、一応努力はしている。と言っても、休みになると近所の神社へ行って、「彼氏ができますように」とお願いしてくるのだ。彼女の家の近所に、縁結びの神様のいる神社がある。ここは、休みになると女の子でごった返すんだけど、ここへ熱心にお参りしているのだ。そりゃあ確かに、休みの日でも部屋の中でごろごろしているよりはましだ。でも、まさか神様が天から降ってきて、彼氏になってくれるわけでもなし。まして、サンタクロースさんが彼氏をプレゼントしてくれるわけじゃなし。もし私が多恵子のような立場で、どうしても彼氏が欲しいのならば、私だったらもっと男が集まりそうな場所に行くはず。例えば、ディスコでお立ち台に立って踊ってくるとか、適当に誰か友達を誘って居酒屋に行くとか、もっと露骨にエッチがしたいだけだったらテレクラとか伝言ダイヤルとかに電話するとか、夜中に駅前で引っ掛けられるのを待つとか、要は積極的に男を呼ぶ努力をしてると思う。少なくとも、男と出会うきっかけがない事には、彼氏ができるわけがないんだから。ところが、多恵子は絶対にそんな事をしないのだ。なぜかと言えば、答えは簡単。

「恐いんだもん。例えば、車からナンパされて、ほいほい乗り込んだらどこへ連れて行かれるかわかんないじゃない。」

 そりゃあ確かにそうだけど、変なとこに連れて行かれて良からぬ事をされそうだったら、男の大事なところを蹴っ飛ばして帰ってきたらいいじゃない。小心者のような事ばっかり言ってるから男ができないんだよっていつも言ってる。

「それは、絹絵が軽いからそういう事が言えるんだよ。」

 なんて、よくもまあ自分のことを棚に上げてそんなことが言えるわね。

 そんな多恵子も、25歳になって少々あせっているみたいだ。先日、短大のクラスメイトからはがきが届いて、「子供ができました」と写真つきで便りをよこしたからだ。

「短大行ってた頃はあんだけとっかえひっかえ男とやりまくってたのに、結婚した途端にこれだもんなぁ・・・。」

 かくして、多恵子のエッチしたい願望は、いつの間にか結婚願望に変わっていた。ただ、どちらにしても彼氏ができないとかなわない願望である事に間違いない。じゃあ、何か彼女に変化があったのかと言えば、相変わらず神頼みをしているのみ。こんな暑い夏なんだもん。浜辺で知り合った彼氏と、めでたくゴールインなんてのにあこがれないのかと言えば・・・恐いからやだという一言で片付けられてしまった。

「それでも今年は努力してるんだよ。7月7日には短冊飾ったもん。それに、恋愛成就のテープなんてのも買ってきたし、今年こそは大丈夫。」

 大丈夫って言ったって、七夕の短冊に「彼氏が欲しい」と書いたら彦星さんが降ってくるわけないし、テープが星の王子様に化けるわけでもなし。この調子で行けば、12月になっても彼氏ができなかったら、サンタさんにおねだりしかねない。私がサンタさんだったら、きっとあきれるだろう。サンタさんはよい子にだけプレゼントをくれるんだよ。私は心の中でそうつぶやいていた。