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 私、はっきり言って自分でも新しい物好きの無鉄砲だと思ってる。学校で禁止されているバイトなんてお手の物。アルバイト情報誌を見て、18歳以上なんて書いてあっても、「18歳のフリーター」なんて嘘の履歴書書いて働いてたりする。「できたら昼間も働いて欲しいなぁ」と言われたら、「実は昼間別のバイトしてるんですよ」と理由をつけて断ってしまえばいいんだから。他にも、部屋には冷蔵庫だってワープロだってあるし、ポケベルだってだいぶ前から持ち歩いてる。私の部屋は母屋とは別の離れになっていて、親は母屋にいるから、夜中に少々騒いだところで聞こえないようになっている。ま、生活に必要な物で部屋にないものと言えば、ガスと水道ぐらいのものかな。最近は、サブノートと携帯が欲しいかなと思ってる。

「お前は制服来てるから高校生に見えるだけで、こんなのどう見たって高校生じゃないよ。」

 彼氏にまでこんなことを言われている。高校生に見えないというか、高校生に見えるのが嫌いなのだ。だから、多少無理してるとは思うけど、普段は高校生には見えないような服を着ている。ま、彼氏と言っても以前テレクラで知り合って、別れるのが面倒臭いから付き合ってると言った方が正しいかもしれない。

 これだけ遊びまくってたらさぞかし成績が悪いだろうと思ったら、とんでもない。クラスでも上から数えた方が早いんだよ、と言いたいところなんだけど、こんなこと言ってしまったら嘘になっちゃう。目も当てられないのが数学で、ひどい時なんか試験の点数が1桁だ。その代わり、英語だけはばっちりだった。ま、自分でも英語だけは好きだから、真面目にやっている。もっとも、教科書の和訳の宿題は、大抵誰かに見せてもらったり、当てられてからその場で考えたりするけど。そんな訳で、英語しかない大学へ行ってみたいと思ってる。

「こんなんじゃダメ。あんたの頭じゃ到底行けるわけないよ。大体英語が得意って言ったって、入試は英語しかないわけじゃないんだから。」

 うちの担任には、いつもこう言われている。ま、うちの担任と言うのが英語の先生だから、取り敢えず英語さえできていれば成績のことであまりとやかく言われないのだ。それに、うちの高校ってばりばりの進学校ってわけでもないし。

 そんな私の夏休みの計画と言うのが、一人っきりで海外に行って来ようと。こんな話をしたら、みんなとんでもないって言う顔をした。映画館とか原宿とかだったら一人で行けるし、英語の勉強にもなるし、第一自分のお金で行くんだから別にいいじゃないって言ったら、それとこれとは別だって言われてしまった。大体お前は無鉄砲すぎるだの、無計画だの、高校生らしからぬ高校生だの、挙げ句の果てにはこんな事考える暇があったら勉強しろだの、普段口が裂けても言えないような事をここぞとばかりに親から言われた。結局、この計画はおじゃんになった。もっとも、その理由と言うのが今からパスポートの発給なんてやってたら夏休み中に旅行にありつけないって事だったんだけど。その晩一晩中悔しくて眠れなくて、朝になって鳴るはずの目覚まし時計を自分で止めてた。

「ま、大学に行ったらもっと時間作りやすいし、それから日本脱出しても遅くないんじゃないの。」

 なんて彼氏には笑われちゃった。

 秋になって、にわかに回りが騒がしくなった。推薦入試なんてものがあるらしく、やれ願書を持って来いだの、やれ勉強しろだの、やれ結果はどうだの言う話ばっかり出てきた。私もそろそろ頑張らなきゃと、彼氏とは別れて、バイトも辞めた。そしたらポケベルの月々の使用料が払えなくなることに気がついて、これも返しちゃった。私の大学選びの基準は、「英語の単科大学で、この辺で一番難しそうなとこ」なんて言う至ってアバウトな選び方だった。何しろ、推薦状書くから明日中に願書持って来いって言われて、大慌てで願書を買いに行ったぐらいだから。近所で探したらみんな売り切れで、快速に乗って一番おっきな本屋さんまで行って、それでも見つからなくて恐る恐る店員さんに聞いたら、1部だけ残ってた願書を店の奥の倉庫らしき所から持ってきてくれた。で、これを担任のところに持って行ったら、次の日にこんなこと言われた。

「あんたの場合はね。困るんだよ。例えば、クラブで何か大会に行ったとか、生徒会執行部で頑張ったとか、要は勉強以外でもいいから高校で頑張ってたって証拠が何もないんだから。こんなんで推薦文、なんて書けって言うんだよ。」

 ほっといてよ。大体公募制推薦入試なんだから、クラブで頑張ってなくったって試験を受ける権利はあるんだから。まあ、何とか小言を言われながらも推薦文を書いてもらって、願書を速達で出して、入試を受けたら結果は見事な物だ。何しろ、速達で薄っぺらい封筒が返って来たら、封を切らなくても結果は判りきってると言うもの。中身を見る前に、ごみ箱に捨てちゃった。

 じゃあ、今度は一般入試を頑張るかと、大学選びをしてみた。大学の偏差値表を上から順番に眺めて、行きたい大学をピックアップした。そしたら、今度は英語しかできない私の頭が足を引っ張った。模擬試験を受けたら、英語で点数を稼いで国語と社会で点数を取られるんだから。試験科目が英語しかない大学ないですか、なんて言ったらそんなもんあるかって言われた。結果は、あえなく全部不合格。正確に言うと、私の頭でも行ける大学と言うのはあった。あったけど、名前も聞いたことがない、行っても本当に役に立つのって突っ込みを入れたくなるような大学だった。こんなのもし滑り止めで受かったとしても、絶対に行きたくないって思ってた。下手に受かって、入学金を払って、結局行くのをやめたなんて言うのは最高に馬鹿らしい事。少なくとも私はそう思ってたから、行きたい大学しか受けなかった。

 今、予備校に通いながら大学を目指してる。私の場合、新しい物好きの無鉄砲な性格で、痛み出すのはいつも後からだ。もっとも、その新しい物好きが災いしてか、浪人確定って時点で早速携帯電話を買ってしまった。お前みたいなアグレッシブな奴は見たことないって、予備校で見つけた今の彼氏にも言われている。でも、そんな時私はこう言い返してやる。

「過保護に育った箱入り娘のお嬢様より、よっぽど面白いでしょ?」