パンプス


ある朝の出来事

武人は、ふとんからなかなか抜け出せなかった。無論、朝に弱い大学生の宿命ではある。しかし、今日はそれだけが理由ではではなかった。
昨日の出来事である。あるレンタルビデオ店でアルバイトをしていた武人を、坂田氏が呼んだ。坂田氏は、店長であり、武人の上司でもある。この店が開店して間もないころ、つまり坂田氏が店長になってからのアルバイト君として、武人は気にいられていたのである。
「吉本君、明日また新しい子がはいるんよ。」
武人は、この店では一番の古株である。従って、新人研修は、いつも武人が担当するものと相場が決まっていた。
「またですか? もうそろそろほかの子に研修を任せてもいいんじゃあないですか? どうせ僕も四回生ですし。」
「いやあ、確かにそうなんやけど、吉本君以外にはどうにも任せる気になれんのよ。だから、明日も頼むで。」
「はあ・・・・・」
結局のところ、坂田氏に押し切られた形で、武人が新人研修を担当することになった。新人研修担当と言うのは、とかく羨ましがられるものである。なぜなら、相当慣れた店員であると認められた証拠となるというのもある。だが、その実もし女の子が来た場合、その子と一番最初に話をすることができる訳でもある。従って、この新人研修がきっかけでつきあうというケースが結構あるわけである。
だが、武人はあまり気乗りがしなかった。言わば、非常においしい立場であるのに、である。その理由ははっきりとしていた。