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JR東日本をはじめとして、首都圏の列車と地下鉄、バスでは、Suica、PASMO、Kitaca、TOICA、manaca、ICOCA、PiTaPa、SUGOCA、nimocaなどの全国共通交通系ICカード(以下、Suicaと略します)が使えるのがもはや常識となっています。しかし、都心から離れたところに行くと、未だにSuicaが使えない鉄道会社や、バス会社があります。
例えば、羽生から熊谷を経由して、三峰口を結ぶ秩父鉄道。秩父駅には、Suicaが使えない旨でっかく書いてあります。
注:2022年3月12日よりSuicaが使えるようになりました
また、中央前橋から赤城を経由して、西桐生を結ぶ上毛電鉄も、Suicaは使えません。このため、中央前橋駅の改札には、自動改札もICカードリーダーもありません。
1.Suicaは、他の電子マネーよりも仕組みが複雑である
「機械ぐらい買えよ。Suicaなんて、いまどきコンビニだって使えるんだからさぁ。」
なんて考えている方もいらっしゃいますが、簡単に設置できるのは物販の場合。物販だと単純に引き落とし金額を入力して、ICカードリーダーにタッチしてもらえばいいだけなので、仕組みが簡単なのです。
ところが、Suicaを電車やバスで使う場合はそうは行きません。乗車駅と経由駅を記録して、下車駅で運賃を算出してから引き落とす、という処理が必要なのです。このため、乗車駅と経由駅には、どこの駅から乗った(または通った)かを、Suicaに記録しています。で、下車駅ではこの情報を元に、最安の運賃を算出して、Suicaの残額から差し引く、しかもそれをタッチした瞬間に行うという、高度な技術が使われているんです。もちろん、システムの導入にはソフトウェア開発費を含め、多額の資金がかかります。
要は、コンビニでSuicaを使っているのと、電車・バスでSuicaを使っているのとでは仕組みが大きく異なり、後者の方がより高度なことをやっているんです。その分お金もかかりまして、中小の私鉄やバスでは導入する資金を捻出できないのです。
2.サイバネ規格に準拠しなければならない
全国には、ICカード乗車券を採用しているにもかかわらず、Suicaが使えない鉄道・バス会社があります。例えば、同じ九州の市電でも、熊本市電はSuicaが使えます。なので、熊本のレトロ電車にもSuicaが使えますと書いてあります。
ところが、鹿児島市電はICカード乗車券が使えるのに、Suicaは使えません。このため、鹿児島のレトロ電車には、ICカードリーダーがついているにもかかわらず、Suicaが使えないのです。
その他、富山地方鉄道やゆいレールなど、特に地方都市あたりだと、独自のICカード乗車券を採用しているためにSuicaが使えない鉄道会社やバス会社があるんです。
「ICカードが使えるのに、なんでSuicaが使えないんだよ!」
それは、全国共通のICにするためには、日本鉄道サイバネティクス協議会が策定した規格(通称:サイバネ規格)に準拠しなければならないからなのです。サイバネ規格を採用するには、まずはこの協議会に参加しなけばなりません。それには、多額の年会費を支払わなければならないのです。しかも、路線の追加や変更、廃止を行った場合には申請をしなければならない等、結構面倒だったりするのです。
この費用や負担を嫌って、敢えてサイバネ規格に準拠せず、独自規格のICカード乗車券を採用する鉄道会社・バス会社があるんです。
3.約款を変更しなければならない
これは、JR東日本をはじめとして、A駅からB駅に行くときに複数ルートが存在する鉄道会社の場合の話です。Suicaで乗った場合、正確な乗車経路を特定することができません。また、切符を買うときに乗車経路を指定することもできません。このため、「どの経路で乗ったとしても、最短経路を経由したものとみなして運賃を算出する」と約款に記載する必要があるんです。
では、具体的にどうするかというと、大都市近郊区間に含めるということ。実はJRには大都市近郊区間を乗車している場合、実際の乗車経路にかかわらず最短距離を乗車したものとみなして運賃を計算するルールになっていまして、Suicaが使える区間はこのルールを適用できるよう、大都市近郊区間に含める必要があるんです。
このため、東京近郊区間は関東圏を超え、遠く山梨県や長野県まで範囲に入っています。
「長野県って、どこが東京の近くやねん!」
・・・と突っ込みを入れたくなるかと思いますが、これは首都圏でSuicaが利用できる範囲は約款上、東京近郊区間に含める必要があるからなのです。
4.では、Suicaで乗って、Suicaが使えない駅で降りたらどうなる?
「改札口にICカードリーダーがない時点で、Suicaが使えないとわかるから気づくのでは?」
・・・と思う方もいらっしゃるかと思いますが、さにあらず。前述の通り、ICカードリーダーがついているのにSuicaが使えないケースがあります。また、Suicaが使える鉄道会社と、Suicaが使えない鉄道会社の共用駅の場合、Suicaが使えない鉄道会社にSuicaで乗ってしまうケースがあります。
この写真は、赤城駅。ICカードリーダーが付いていますが、Suicaが使えるのは東武鉄道線に乗った場合のみ、上毛電鉄線ではSuicaは使えません。ここで、上毛鉄道線に乗る人が、誤ってSuicaをタッチして改札口を通過するケースが考えられるのです。
更に、JRでSuicaエリア内からSuicaエリア外に乗る。Suicaが使える鉄道会社と、Suicaが使えない鉄道会社の間で、列車が相互乗り入れしている・・・など、Suicaで乗ったお客が、Suicaが使えない駅で降りるケースは十分に考えられるのです。
では、Suicaで乗って、Suicaが使えない駅で降りた場合、何が起こるのでしょう。
もちろん、Suicaが使えない駅で降りた場合、当然ですが運賃をSuicaで払うことはできません。現金で支払うことになります。しかし、それだけだとSuicaに乗車駅の情報が残ってしまいます。そこで、乗車駅の情報を消してもらわないといけないのです。もちろん、Suicaが使えない駅ではできません。なので、運賃を精算した時に、運賃を支払い済みであることの証明書がもらえます。で、Suicaが使える駅に行ったときに、この証明書とSuicaを駅員さんに渡して、Suicaの乗車駅情報を消してもらうんです。
これは、JRでSuicaエリア内の駅から、Suicaエリア外の駅へ行った場合も同じ。言うまでもなく、とっても面倒くさいです。
東武特急リバティ会津って、東武鉄道から野岩鉄道を経由して、会津鉄道の会津田島まで行くのですが、Suicaが使えるのは東武鉄道線内のみ。野岩鉄道線と会津鉄道線内ではSuicaが使えません。これ、かなり危険でして、浅草か北千住あたりで特急リバティ会津にSuicaで乗って、新藤原駅から先の駅へ行くと、かなり高額の運賃を請求されるケースがあるんです。しかも現金精算で、Suicaはしばらく使えなくなるというおまけつきです。事実、これを知らずに特急リバティ会津にSuicaで乗って、野岩鉄道の車掌さんから現金で精算するよう言われ
「機械ぐらい買えよ!」
と逆切れしていたおじさんがいました。確かに、東武鉄道の駅で特急券を買う時点で、新藤原から先の駅に行くかどうかはわかるはずなので、東武鉄道の駅で、新藤原以遠の駅への特急券のみを買おうとしたお客さんに
「Suicaは使えませんので、乗車券も買わないといけないのですが、よろしいですか?」
・・・と注意喚起する必要は大いにあるのではないかと思います。
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